BiSH モモコグミカンパニーさんインタビュー「最初は100%をめざさなくてもいい。0.5歩でも踏み出してみる。その場所に行かないとわからないことがあるから。」(前編)

#先輩からのメッセージ

インタビュー:あらいかわこうじ 
撮影:三澤 威紀

「やってみたい」ことはハードルが高く見えるけれど
毎日コツコツと前に進んでいけば、
何もできない自分のままではないと思います。

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー、モモコグミカンパニーさん。彼女はBiSHで多くの楽曲の作詞を手掛けるだけではなく、2022年3月には長編小説『御伽の国のみくる』を出版するなど、その文才を生かして多方面で活躍しています。今回はそんな彼女の学生時代のお話を聞きました。

BiSH モモコグミカンパニー さん

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHの結成時からのメンバーで最も多くの楽曲で歌詞を手がける。読書や言葉を愛し、独特の価値観や世界観を持つ彼女が書く歌詞は、圧倒的な支持を集め、作詞家としての評価も高い。2018年3月に初の著書『目を合わせるということ』を上梓し、大ヒットを記録。2作目となるエッセイ本『きみが夢にでてきたよ』は、クラウドファンディングで支持者と共に完成までの過程を公開するプロジェクトを立ち上げ、異例のベストセラーを記録した。2022年3月『御伽の国のみくる』にて待望の小説デビューを果たす。

大学で焦っていたからこそ自分の輝く場所を見つけられた

—— 大学ではメディアについて学ばれたとのことですが、なぜ、この専門分野を選んだんですか?

モモコグミカンパニーさん(以下 モモコ):専門分野の選択をする頃にはBiSHの活動を始めていました。だから、もう少し深く自分の仕事を理解したくて、役立ちそうな分野を選びました。

—— BiSHに入る前はどのような大学生活を送っていたんですか?

モモコ:専門分野を選択する前は、理系も文系も勉強しました。当時の私はしたいことがはっきり固まっていなかったので、いろいろ勉強できたのはよかったです。数学にはこんな世界があるんだとか、天文学とか。

—— 印象に残っている講義はありますか?

モモコ:英語プログラムです。授業以外でも原則、英語を使わなくてはならなくて、私はちょっと日本語もしゃべっていたんですけど(笑)、日本にいながら留学している感覚を味わえました。その頃は自分に合うものと合わないものを見定める貴重な時間だったなと思います。後は……恥ずかしいですけど、映画研究会に所属して映画を撮っていました。

—— アイドルについて誰かと話すことは?

モモコ:大学には、アイドルに興味のある人がいなくて。「アイドルのオーディションってどんな感じなんだろう?」という理由で、一人でBiSHのオーディションに行きました。そのときに、プロデューサーの渡辺(淳之介)さんがおもしろい仕事をしている人だと知って、そこに一歩踏み込んだら自分の目が輝くかもしれないと思ったのがBiSH加入の発端です。

—— それまでは輝いていなかったんですか?

モモコ:大学には、世界に目を向けて「自分はこれを学びたいんだ」と強い信念を持っている人が多かったんです。でも、私は本当の意味で学びたいことがなくて。キラキラした目で勉強と向き合っている周りの人たちを見ていると、自分は何がやりたくて、どこに向かっていけばいいんだろうという気持ちになっていました。だから、BiSHに加入する前の私は、心のどこかでずっと焦っていましたね。

—— そういうときだからこそ、何となく短期留学する人もいます。

モモコ:それも確実にいい経験になると思います。短期といっても最初の一歩を踏み出すのは大変なことなので。でも、目を輝かせて踏み込んだ一歩と、「みんながやっているから私も」という一歩は全然違うと思います。私もBiSH加入を決めたときは親を説得したり、自分でもいろいろ考えたりして、ちゃんと一歩踏み出した実感がありました。

—— BiSHに入ってからの大学生活は変わりましたか?

モモコ:BiSHに入る前は、時間があっても大学に行かないことがありました。深夜までバイトをした翌日は昼まで寝て、午前中の講義を休んでしまうとか。BiSHに加入したことで張り合いが出たんだと思います。したいことがはっきりしなかったBiSH加入前よりもメリハリがついて、仕事も勉強も頑張るようになりました。BiSHに入ってからの方が単位も落とさなくなったんです。BiSHに加入する前は、「今日、大学に行く理由は何なのか」「そもそも大学を卒業する意味はあるのか」と考え込んでしまうダボダボでゆるゆるな毎日でした。だから、私の大学生活はBiSHの活動に救われたといえますね。それに仕事を理由に卒業できないのは、一番ダサいと思っていました。こういう仕事をしているからこそ、4年で卒業したいなと。

—— 卒論は、そんなBiSHで活動する自分自身を題材にしたそうですね?

モモコ:その方が深く掘り下げた卒論を書けるだろうなと思って、「アイドルと演じること、一人の人間に見る虚像と実像」というテーマで書きました。その頃のBiSHは本当に忙しかったんですけど、朝4時に起きて。

—— 朝4時ですか!

モモコ:あの時期は、今振り返っても一番辛かったです。ただ、薄っぺらな卒論にはしたくなかったので、私自身のこととメンバーへのインタビューも資料にしながら、社会学者アーヴィング・ゴフマン(※)の「人はみんな演じている」という理論になぞらえて書き上げました。卒業後、卒論の担当教授が私をゲスト講師として呼んでその卒論を使った授業をしてくれたので、そのくらいの内容にはなったのかなと思います。

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